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東京高等裁判所 平成11年(ネ)3984号 判決 2000年6月29日

控訴人(原告)

黒沢建設株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

及川昭二

北郷美那子

補佐人弁理士

【B】

被控訴人(被告)

弘和産業株式会社

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁護士

中島和雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴人の求めた裁判

「一 原判決を取り消す。

二 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の緊張鋼材ユニットを製造販売してはならない。

三 被控訴人は控訴人に対し、二一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決。

第二事案の概要

一  原判決三頁以下の「第二 事案の概要」に示されているとおりである。ただし、五頁一〇行目の「且つ」を「かつ」に、一七頁一〇行目の「後記二5」を「後記二4」にそれぞれ改める。

二  原判決は、イ号方法は本件発明(一)の構成要件D(該固結材の硬化後に前記緊張鋼材を所定の緊張力で順次緊張したこと)を充足しないから、イ号方法の実施が本件特許権(一)を侵害するものとは認められず、また、ロ号物件が本件発明(二)の構成要件G(これら配設された緊張鋼材は、支圧具の周面上及び支圧具間の複数箇所において定着具で結束し全体を柱状に構成したこと)を充足するとは認められないから、ロ号物件の製造販売が本件特許権(二)を侵害するものと認めることはできないとして、控訴人(原告)の本件各請求はいずれも理由がないものと判断した。

控訴人は当審において、イ号方法が本件発明(一)の構成要件Dの「順次緊張」を充足するものではないとした原判決の認定、判断に誤りがある旨主張した。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、イ号方法は本件特許権(一)を侵害するものとは認められず、ロ号物件は本件特許権(二)を侵害するものとは認められないと判断するものであるが、その理由は、原判決三三頁以下の「第三 争点に対する判断」に示されているとおりである。ただし、四五頁一〇行目及び四八頁五行目の「はじめて」並びに四九頁九行目の「初めて」をいずれも「始めて」に改め、五二頁七行目の「争点5」を「争点4」に改める。

二  控訴人が当審において主張する要点は、

「イ号方法は、長さの異なる緊張鋼材の数のプーリングヘッドを用意し、チェラスト弾性体を介在させて各緊張鋼材の伸びの差分だけプーリングヘッドをずらして積み重ね、チェラスト弾性体が圧縮されている間は短い緊張鋼材に緊張力が導入されないようにして伸びの差分を解消し、次々と緊張していくものであり、緊張開始時期に差を設けたいわゆる差動緊張方法であるが、チェラスト弾性体が圧縮されている間に短い緊張鋼材に掛かる荷重は、チェラストが圧縮されている際の反射力にすぎず、緊張力ではないから、本件発明(一)の「順次緊張」と技術的思想において同一である。

すなわち、イ号方法におけるチェラスト弾性体のチェラストは技術用語として明確なものではなく、チェラスト弾性体は内容不明の物質である。チェラスト弾性体が長さの異なる緊張鋼材の伸びの差分だけ圧縮されるとプーリングヘッド同士が接触して一体化されるから、チェラスト弾性体は弾性体として作用しているわけではなく、プーリングヘッドを単に伸びの差分だけ離しておくというスペーサーの機能しか果たしていない。チェラストを圧縮する際に短い方の「PC鋼より線等」に作用する力は、緊張力として意図されたものではなく緊張力としての技術的意義を有していない。本件発明(一)の本質は、緊張鋼材を長い方から伸びの差分を解消するように緊張するというものであるところ、イ号方法においては、チェラスト弾性体を介在させたため、副次的に短い方の「PC鋼より線等」に力が作用するが、チェラスト弾性体が変形し始めてから変形が終了するまでの間に、次に長い「PC鋼より線等」に掛かる荷重はチェラストが圧縮される際の反射力にすぎず、緊張力ではない。したがって、イ号方法も、長い順に伸びの差分を解消するという「順次緊張」の基本においては、本件発明(一)と変わるところがなく、本件発明(一)の構成要件Dを充足している。」という点にある。

しかしながら、引用した原判決の前記認定及び説示によれば、イ号方法は、その構成をみると、ジャッキを作用させてシリンダーを持ち上げることにより、各「PC鋼より線等」の伸びの差分の解消を同時に開始するものであり(原判決一四頁以下のイ号方法のdの構成参照)、すべての「PC鋼より線等」を同時に緊張させながら、チェラスト弾性体を介在させることによるプーリングヘッドの差動を利用し、その差動の間に伸びの差を解消するものであるということができる。例えば、ジャッキを作用させると、第1プーリングヘッドの持上りにより最も長い「PC鋼より線等」が緊張し、それと同時に弾性変形する第1チェラスト弾性体の反発力により第2プーリングヘッドが小幅持ち上がり、次に長い「PC鋼より線等」は、第2プーリングヘッドの引張力により、最も長い「PC鋼より線等」と同時に荷重が掛けられて緊張するものであることは明らかである(次に長い「PC鋼より線等」に掛かる荷重が、控訴人の主張するように緊張力がない、ということはできない。)。また、最も短い「PC鋼より線等」も、右と同様に、同時に荷重が掛かって緊張するのである。

このように、イ号方法においては、各緊張鋼材の緊張が、その緊張力の強弱に差異があっても、ほぼ同時に開始されているのであって、最も長い第一緊張鋼材が次に長い緊張鋼材との伸びの差分だけ緊張される前から、第二緊張鋼材の緊張も開始されており、また、第二緊張鋼材が最も短い第三緊張鋼材との伸びの差分だけ緊張される前から、第三緊張鋼材の緊張も開始されているから、本件発明(一)の構成要件Dの「順次緊張」(原判決四〇頁七行ないし四一頁一行参照)とは異なっているといわざるを得ない。

控訴人は、「PC鋼より線等」の自重を考慮すると、イ号方法は同時緊張ということはできないとも主張し、甲第一七号証の解析書を援用するが、イ号方法の構成に基づく判断は右にみたとおりであるし、甲第一七号証によっても、イ号方法の「PC鋼より線等」に掛かる荷重の大きさに関する原判決の認定(乙第四号証の報告書に基づくもの。四七頁以下の(2))を動かすには足りないので、右主張も理由がない。

控訴人が当審において主張するところ及び新たに提出した甲号各証によっても、引用した原判決の判断は左右されない。なお、チェラスト弾性体は、右構成に耐えられるものであればよく、それ以上にチェラスト弾性体の性質決定について判断する必要はない。

第四結論

よって、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)

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